「藤谷さん!」 「ハッ、夢・・・」自分の名を呼ぶ声に目覚めた彩。 まさに今見ていた悪夢から現実に戻されたの女子校生 藤谷 彩は、 突然の事に驚きながらも多少の安堵感を覚えていた。その悪夢が少女にはあまりにもおぞましく恐ろしさに満ちたものだったからである。 そして、さらに彼女は自分が置かれている気まずい現状をすぐ自覚せざるをえなかった。というのも、彼女が目覚めたその場所は学校の教室であり、今は授業中だったからである。彩が恐る恐る顔を上げると女教師の姿が目の前にあった。 「悪いわね。起こしちゃったかしら」 女教師の嫌味な言葉が突き刺さった。 「あ・・・、いいえ、寝てません」 「そう・・・」笑みを浮かべながら 「じゃあ、今の所を訳して」とダメを押す教師。 「え・・・」絶句する彩。 英語教師の坂本は学校で最も若い女教師である。彼女は知的さを感じさせる美貌と抜群のスタイルに恵まれていた、生徒達がファンクラブを結成するほど・・・。 そして短い沈黙があった後、 「あとで職員室へ来なさい」女教師は教壇の方へ帰って行った。 「キンコーン、カンコーン」4時限目の終了を告げるベルの音が響いた。 生徒達は皆、昼食をとるために食堂へ向かった。そんな中、一人だけ人波に逆らって職員室へ歩いている女子生徒がいた。 廊下の窓には瀬戸内海が広がっていた。彩はこの景色が好きだった。1年前、彼女がこの女子校を選んだのはこの美しい景色に魅かれたからだった。 この瀬戸内海女学院は、その名のとおり瀬戸内海の孤島に設けられた異色の学校である。その島には学校以外に一般の民家などは全く存在しておらず、言うなれば教育の場としてのみ形成された「学園の島」なのである。 まるで監獄のようなこの全寮制の学校が、それでも「お嬢様学校」と呼ばれているのには理由があった。外界と切り離されたこの缶詰状態の中では徹底した教育と躾が行われており、裕福な家庭の親達が安心して娘を送り込んで来るからだった。 最初、この学校を両親から勧められた時、彩は悩んだ。しかし結局ここへ来てしまったのは、生まれてずっと山中で育った彼女にとってこの教育環境が、夢のような学園生活を期待させるのに充分な魅力を感じさせるものであったからだ。 「ガラガラッ」彩は職員室の扉を開けた。 |
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